媒介分析の手法と制御焦点理論のレビュー

朝晩冷え込む季節となりましたが、皆さんどうお過ごしでしょうか。

さて、今週の中川ゼミでは、10月初日の授業となりました。

ゼミの冒頭で、小宮あすか・布井雅人(2018)『Excelで今すぐはじめる心理統計』(講談社)を用いて、媒介分析の手法を学習しました。教科書の例では、「社交性」「対人的な魅力」という要因が「営業成績」にどの程度影響を及ぼすのかを、実際にHADを起動して分析しました。媒介分析とは、2つの変数の関連に別の変数が関わっているかどうかを検討する分析方法です。今回はそれぞれ、「社交性」を説明変数、「営業成績」を目的変数、「対人的な魅力」を媒介変数(目的変数に対する影響を媒介する変数のこと)として投入しました。また、媒介分析では、媒介変数のあり・なしのモデルを検討する必要があります。媒介変数がないときのモデルでは、単回帰分析を行います。今回は「社交性が高い人ほど営業成績がよい」という現象がみられるかを検討したいので、目的変数に「営業成績」、説明変数に「社交性」を投入して分析します。媒介変数があるときのモデルでは、基本的には、単回帰分析を2回行います。まず、「魅力」を目的変数に、「社交性」を説明変数に投入した単回帰分析を行い、「社交性が魅力を高めるかどうか」を検討します。そして、先程行った単回帰分析(媒介分析なしの分析)に「魅力」を新たに説明変数として加えた重回帰分析を行い、「魅力が営業成績を予測するかどうか」を確認します。この際、新たに投入した変数による効果は統制されるため、この分析で「社交性が営業成績に及ぼす影響が小さくなっているかどうか」を確認します。

山田一成・池内祐美(2018)『消費者心理学』の第13章「欲しいものがなくならない?:消費欲求と消費社会」に関連した論文で、Howell, R. T. and G. Hill (2009). “The mediators of experiential purchases: Determining the impact of psychological needs satisfaction and social comparison.” The Journal of Positive Psychology 4(6): 511-522. が発表グループ6班により紹介・発表されました。Howell & Hill (2009) では、経験型購買(vs物的購買)が、「社会的比較(の低さ)」や「活力(の高さ)」を媒介変数として「幸福度」に影響を与えるモデルについて、上記で学んだ媒介分析によって実証分析がおこなわれていました。ちょうど媒介分析を勉強したばかりだったので、分かりやすかったです。

最後に、インゼミグループ第2班による「制御焦点理論」に関する先行研究のレビューの発表が行われました。これは、各班ごとに研究内容に関連する論文等を探し、講義形式で60分程度発表を行うというものです。このグループが題材している「制御焦点理論」は、主に「促進焦点」と「予防焦点」という2つの理論に大別されます。これは、Regulatory focus theoryによると、人が目標達成をする動機の焦点として定義されており、動機と目標達成の関連についての理論です。

「促進焦点」:ポジティブな結果を目指すことを目的とする

「予防焦点」:ネガティブな結果を回避するを目的とする

膨大な研究が紹介されましたが、その中で石井裕明(2020)『消費者行動における感覚と評価メカニズム』千倉書房の第11章の例を紹介させていただきます。

石井(2020)によると、以下のように結論付けられています。

①予防焦点の消費者・予防焦点に基づく広告コピーでは、手書き書体よりも活字書体のほうが好ましい評価を受けやすい

②手書き書体POPでは、促進焦点の消費者は、予防焦点の広告コピーよりも促進焦点の広告コピーのほうが、好ましい評価を受けやすい

上記の結論をまとめると、石井(2020)では、予防焦点のメッセージには活字書体が好ましく、促進焦点のメッセージには手書き書体が好ましいという事です。しかし、この研究の批判的見解として、「上記のような理論は、商品コンセプト等によって、適切な書体が変わるのではないか」という意見が出ました。例えば下の「OS-1の広告」では、「脱水って、人ごとだと思っていませんか。脱水状態には、コレ。」というメッセージが所ジョージさんによる手書き書体で作成されていました。しかし、上記の研究によると、この広告は、予防焦点に重きを置いた広告であるため、本来、「活字書体」が好ましいと考えられますが、「実際に熱中症を経験し、その危険性を知っている」所ジョージさん本人がこの商品を推奨しているため、逆に、手書き書体のほうが、「信憑性・信頼性」を視聴者に伝えられるのでは、という意見がありました。

このように、先行研究の結論を絶対的に正しい見解とするのではなく、自分なりの考えで批判的見解を導き出すことに消費者行動を研究する意義があるのだと思いました。

次回は、新入生に向けてのオープンゼミを行う予定です。現在、進行中のインゼミ研究を発表するので、気合を入れて臨みたいと思います!

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